計算が大変そうに思える土地売却の所得税ですが、以下の計算式を使えば案外簡単に算出できます。
税額=【譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除】×税率 |
ただし聞きなれない用語があると、やはり難しく感じてしまいがちですよね。
そこでこの記事では、税金計算が初めての方でも誰でも理解できるよう、簡単な言葉だけを使って分かりやすく計算方法を説明します。穴埋め問題のように空欄を埋めるだけで、支払う税金がいくらになるか分かるような構成にしました。
最初「なんだか難しそう…」と思っていた方でも、この記事を読み進めるうちに、自分が売却した土地の所得税計算を終えることができるはずです。ぜひ一緒に税金を計算してみましょう。
目次
1. 土地売却の所得税の計算方法
冒頭でも伝えた通り、土地売却の所得税を求める場合の、基本的な計算式は以下となります。
税額=【譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除】×税率 |
譲渡価額-(取得費+譲渡費用)の部分を、譲渡所得といいます。土地を売却した後にどれくらい利益が残ったかを示した部分です。
所得税を求めるには、まず譲渡所得を計算し、特別控除がある場合は譲渡所得から差し引き、最後に決められた税率をかければ計算完了です。
これから詳しい計算方法を説明していくので、それぞれの金額が分かるものをお手元にご用意いただき、穴埋め式にしている空欄に入れて一緒に計算していきましょう。
1-1. まずは譲渡所得を計算
譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除 |
実際に穴埋め形式で、下の四角の中に金額を入れてみましょう。
①譲渡価額とは
譲渡価額とは、土地の売却金額をいいます。
②取得費とは
取得費とは、その土地の購入代金、建築代金、購入手数料以外に、設備費や改良費などが含まれます。
建物の取得費を計算する場合は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算しますが、土地の場合は経年劣化が無いため、減価償却費相当額を計算する必要はありません。
土地をいくらで購入したか分からない場合は、売った金額の5%相当額を取得費とします。
例:5,000万円で売却した土地の購入額が分からない場合 ➡取得費=5,000万円×5%=250万円 |
取得費の金額が高い方が譲渡所得が低くなり、税金が安くなります。5%相当額しか差し引けないと税金を多めに払わなければならなくなるため、できれば購入額が分かる当時の資料などを探して取得費にすることをおすすめします。
③譲渡費用とは
譲渡費用とは、土地を売るために支出した費用をいいます。例えば仲介手数料、売買契約書の印紙代、測量費、立ち退き料、建物を取り壊して土地を売った場合の取り壊し費用などが含まれます。
1-2. 特別控除がある場合は譲渡所得金額から差し引く
マイホームを売った場合の3000万円特別控除など、特例の要件を満たす場合は、先ほど求めた譲渡所得金額から特別控除額を差し引くことができます。
特別控除が適用できる場合は大幅に減税できるため、自分のケースで使える特例がないか事前に確認してみましょう。
よく使われる特別控除は以下の2つです。
特例の通称 |
適用要件 |
居住用財産の3000万円特別控除 |
マイホームを売却したときに使える特例で、取り壊して更地にした場合も要件が合えば対象となります。 ・住宅を取り壊した日から1年以内に売買契約が締結され、かつ、住宅を居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までにその土地を譲渡した場合 ※「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」と併用可能 |
相続空き家の3000万円特別控除 |
相続した空き家を売る場合は、一定の要件を満たせば取り壊して土地として売却した場合も対象となります。 対象が1981年5月31日以前に建築された家屋であること、取り壊した家屋について相続の時からその取り壊しの時まで事業の用、貸付の用又は居住の用に供されていたことがないことなどの条件があります。 ※「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」との併用はできません。 |
特別控除についてのさらに詳しい要件や、他の特別控除を全て知りたい場合は、「土地売却の税金を軽減する特別控除とは?2つの3000万円控除をメインに解説」の記事をぜひ参考にしてください。
1-3. 税率を乗じて税金を算出
課税される譲渡所得金額が算出できたら、あとは所定の税額を乗算すれば所得税を算出できます。
税額は、土地を所有していた期間が5年以下か、5年を超えるかによって異なります。また、居住用で所有期間が10年を超える場合で「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(10年超所有軽減税率の特例)」の対象となる場合は、軽減税率が適用されます。
<所有期間ごとの譲渡所得の税率表>
譲渡した年の1月1日時点での所有期間 |
所得税 |
復興特別所得税 |
住民税 |
合計 |
所有期間が5年以下の場合 |
30% |
0.63% |
9% |
39.63% |
所有期間が5年を超える場合 |
15% |
0.315% |
5% |
20.315% |
10年超所有軽減税率の特例を適用できる場合(マイホームを売却する場合のみ適用) |
||||
6千万円以下の部分 |
10% |
0.21% |
4% |
14.21% |
6千万円超の部分 |
15% |
0.315% |
5% |
20.315% |
相続した土地を売る場合は、親の所有期間も引き継げます(ただし、10年超軽減税率は適用できません)。
なお、所有期間とは、譲渡した年の1月1日現在の所有期間で判定されます。実際には5年を超える期間所有していても、短期譲渡所得(5年以下所有)となるケースがあるため、注意が必要です。
例:2015年11月10日に取得した土地を2020年11月11日に譲渡した場合 ➡カレンダー上は5年超の所有ですが、2020年1月1日時点での所有期間は5年以内なので短期譲渡所得(5年以下所有)の税率が適用されます。 |
2. 土地を売却の所得税計算シミュレーション
ここからは、1章で説明した計算方法にしたがったシミュレーションをしてみましょう。ここでは6つのケースを用意しました。
以下のチャートを辿っていくと、自分が確認すべきパターンが分かります。該当する計算シミュレーション例を見て、空欄を穴埋めしていく要領で、所得税を計算してみてください。
以下のリンクをクリックすると、詳しい計算シミュレーションに飛びます。
①短期譲渡所得(所有期間が5年以下)の場合
②長期譲渡所得(所有期間が5年超)の場合
③10年超所有軽減税率の特例を適用できる場合
④3000万円控除を適用できる場合
⑤取得費が分からない場合
⑥損益通算する場合
①短期譲渡所得(所有期間が5年以下)の場合
まずは、譲渡所得金額を計算します。
譲渡価額(売却金額):2,500万円 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
譲渡所得が400万円の場合、所有期間が5年以下なら所得税率は30%なので、所得税は120万円(復興特別所得税を入れると122.5万円)となります。
所得税=400万円×30%=120万円 復興特別所得税=400万円×0.63%=約2.5万円 住民税=400万円×9%=36万円 合計=約158.5万円 |
②長期譲渡所得(所有期間が5年超)の場合
まずは、譲渡所得金額を計算します。
譲渡価額(売却金額):2,500万円 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
譲渡所得が400万円の場合、所有期間が5年超なら所得税率は15%なので、所得税は60万円(復興特別所得税を入れると約61.3万円)となります。
所得税=400万円×15%=60万円 復興特別所得税=400万円×0.315%=約1.2万円 住民税=400万円×5%=20万円 合計=約81.2万円 |
③10年超所有軽減税率の特例を適用できる場合
まずは、譲渡所得金額を計算します。
譲渡価額(売却金額):8,000万円 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
譲渡所得が6,500万円の場合、6千万円以下の部分(6,000万円)の所得税率は10%、6千万円を超える部分(500万円)は15%となります。
所得税は合計で675万円(復興特別所得税を入れると約689.2万円)となります。
所得税=6,000万円×10%+500万円×15%=675万円 復興特別所得税=6,000万円×0.21%+500万円×0.315%=約12.6万円+約1.5万円=約14.1万円 住民税=6,000万円×4%+500万円×5%=240万円+25万円=265万円 合計=約954.1万円 |
④3000万円特別控除を適用できる場合
まずは、譲渡所得金額を計算します。
譲渡価額(売却金額):8,000万円 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
この場合、特別控除を利用することで譲渡所得金額がマイナスとなるため、所得税・復興特別所得税・住民税はゼロとなり、税金を納める必要はありません。ただし特別控除を適用するために確定申告は必要なので注意してください。
⑤取得費が分からない場合
まずは、譲渡所得金額を計算します。取得費が分からない場合は、譲渡価額の5%相当額を取得費にします。
譲渡価額(売却金額):2,500万円 取得費が不明のため、譲渡価額×5%=2,500万円×5%=125万円を取得費とします。 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
この例では長期譲渡所得(5年超)の税率で計算します。所有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得の税率を適用してください。
譲渡所得が2,275万円の場合、所有期間が5年超なら所得税率は15%なので、所得税は約341.2万円(復興特別所得税を入れると約348.4万円)となります。
所得税=2,275万円×15%=約341.2万円 復興特別所得税=2,275万円×0.315%=約7.2万円 住民税=2,275万円×5%=約113.7万円 合計=約462.1万円 |
⑥損益通算する場合
まずは、譲渡損失金額を計算します。計算方法は、譲渡所得金額の求め方と全く同じです。
譲渡価額(売却金額):2,500万円 譲渡所得金額=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除 |
譲渡損失が出ているため、もちろん所得税などの税金を納める必要はありません。また、不動産を譲渡して譲渡損失が出た場合は、その損失の金額を他の不動産の譲渡所得から控除できます。
土地Aの譲渡所得が700万円、土地Bの譲渡損失が600万円なら、損益通算して100万円が課税対象となる。 |
なお、事業所得や給与所得など他の所得との損益通算はできません。
ただし、長期譲渡所得かつ居住用財産を譲渡した時にのみ、一定の要件を満たせば事業所得や給与所得など他の所得との損益通算ができます。また、通算を行ってもなお控除しきれない損失額が残る場合は、その翌年以降3年間に渡って繰り越して控除が可能です。(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例、特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
住んでいた家屋を取り壊して更地にした土地を売却し、譲渡損失が3,200万円だった場合 売却した年:給与所得800万円を譲渡損失と損益通算した(譲渡損失の残り2,400万円) いずれの年も、所得額がゼロのため譲渡所得税はなくなり、給与所得に対して既に払っている所得税を還付してもらえます。この特例を適用するためには確定申告が必須となります。 |
3. 土地売却の所得税はいつまでにどうやって払う?
土地を売却して利益が出た場合の譲渡所得税は、翌年の確定申告で申告して納税します。
確定申告の申告期間は毎年2月16日から3月15日となっており、その年の1月1日に住民票がある自治体の税務署で行ってください。
確定申告時の必要書類 所定の確定申告書、譲渡所得の内訳書、譲渡時の書類(売買契約書や経費などが分かる領収書のコピー)、取得時の書類(売買契約書や経費などが分かる領収書のコピー)、譲渡した土地の全部事項証明書、給与所得者の場合は源泉徴収票、マイナンバーなど |
※特別控除や損益通算の特例などを適用する場合は、上記の書類にプラスしてさらに書類を用意する必要があります。詳しくは「土地売却の確定申告で用意すべき必要書類一覧を分かりやすく解説【チェックリスト付】」の記事もご覧ください。
確定申告時の記入例や、確定申告の進め方などを詳しく知りたい方は、「土地売却時の確定申告は必要?必要性の判断方法と申告ステップを解説」をお読みください。
まとめ
この記事では、土地を売却した場合の譲渡所得税の計算の仕方を説明しました。
空欄の穴を埋めていけば誰でも簡単に計算できるような構成を心がけたのですが、無事に税金を計算することができたでしょうか?
今回はあくまで簡単に計算する方法に特化して説明を進めましたが、計算方法と同じくらい大切なのが特例です。特に3000万円特別控除は、適用できる場合は百万円単位で税金を安くすることもできるため、「自分のケースではどの特例が使えるのか」を漏れなく確認することが大切です。
不動産売却時の譲渡所得税は、利益が大きければ多いほど、かなり高額になりがちです。正しく計算するとともに、特例や特別控除を賢く活用しましょう。